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第3回メタボリックシンドロームの病態生理および診断

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プロフィール

産業医学研究財団/アークヒルズクリニック・溜池山王クリニック
医学博士 工藤一彦

 医学博士。防衛医科大学講師、女子栄養大学教授などを経て現在、慶友生活習慣病研究所所長。体力・栄養・免疫学会理事、日本循環器管理協議会評議委員。アークヒルズクリニック・溜池山王クリニック

 今回は、メタボリックシンドロームの病態生理に関する知見と、診断の基準について解説します。これ等については未だ各方面からの異なった報告も多く出されており、やや混乱状態にあるように見られますので、一応現時点での見解であることを念頭おいていただければ幸いです。

疾患の成立

 生活習慣や遺伝子など複数の背景により内臓脂肪の過剰蓄積が本症候群の成立の第一の機序である。次いで、糖代謝、血圧調節システムにも波及し、最終的に冠状動脈や脳動脈に硬化病巣が生じ、狭心症・心筋梗塞や脳梗塞が高率に発症する。

 内臓脂肪組織は単純なる中性脂肪としての貯蔵庫にとどまらない。本症候群の成立上に特異的な位置を占めるのは、内臓肥満に伴う生化学的な変化にあるともいえよう。内臓脂肪を構成する脂肪細胞の増加により、TNFα(腫瘍細胞壊死因子α)、PAI-1(プラスミノーゲン アクチン インヒビ−1) HB-FGF (へパリン結合性-上皮細胞増殖因子)、血圧調節物質であるアンジオテンシノーゲンなどの血中濃度が増加する。TNFαは炎症性サイトカインの産生を促すだけでなく、TNFαレセプターを介してインシュリン抵抗性を増加させる。インシュリン抵抗性の増加による血糖値の増加は、動脈硬化や全身的な血管合併症の原因となるとともに、血圧上昇ともリンクする。PAI-1は、過剰に分泌されると血栓形成を促進し、冠動脈や脳動脈の血栓症のリスクを高める。。B-FGFは血管内皮細胞増殖作用があり、血管の内腔が障害されて動脈硬化を生み出す。アンジオテンシノーゲンは、レニン−アンジオテンシン系を賦活させて血圧を上昇させる。一方、正常の小さなサイズの脂肪細胞から分泌されるアデイポネクチンは、インシュリン抵抗性を低下させ、血糖値や血圧を下げる“善玉”の働きがあるが、脂肪が蓄積し肥大した大きな脂肪細胞では、その分泌量が低下する。

 動脈硬化の成立には脂質、血糖毒、血圧上昇の直接作用に加えて、感染とそれに引き続く炎症性サイトカイン増加の関与が注目されている。本症候群でも、全身的な炎症反応マーカーである高感度CRPフィブリノーゲンの増加がしばしば見られる。このことは、歯周病感染とも関連し、本症候群の成因には多面的、かつ全身的な多くの因子が関与していることを示唆する。

 遺伝子の面からは、肝臓のエネルギー転写調節因子であるSREBP-1cの活性化を介して脂肪酸合成遺伝子発現と肝臓インシュリン抵抗性の増加に関与するとの研究がある。その他に食欲を調節するレプチン分泌にかかわる食欲調節遺伝子の研究も進められており、将来的には、直接的あるいは間接的な遺伝子治療が本症候群にも用いられるかもしれない。

診断基準に関して

 高脂血症、高血圧、糖尿病、肥満の二つ以上の生活習慣病が集積する状態を”マルチプルリスクファクター シンドローム、シンドロ−ムX、死の四重奏 インシュリン抵抗性症候群などが有名であり、現在でも時折、これらの名称が使用されることもある。これらを統一した形で、WHO(世界保健機構)は1999年に、”metabolic syndrome=代謝症候群“の概念と診断基準を示した。 ついで、米国NIHの国立コレステロール教育プログラム(NCEP)も、内臓脂肪を重点にした診断基準(NCEP ATIII)を発表した。NCEPATIIIでは、以下の5項目のうち3項目を示すものをメタボリックシンドロームと定義した。

1)腹囲が男性で102cm以上、女性88cm以上  
2)中性脂肪が150mg/dl以上
3)HDLコレステロールが男性で40mg/dl未満、女性で50mg/dl未満  
4)血圧が最大血圧で130mmHg以上または最小血圧で85mmHg以上   5)空腹時血糖値が110mg/dl以上

 わが国では、2005年4月に肥満学会などの8つ専門学会が参加した合同委員会によって、独自の診断基準を策定し、現時点ではこれが採用されている。

1)腹囲:男性は85cm以上、女性は90cm以上
2)血圧:収縮期130mmHg以上あるいは/および拡張期85mmHg以上
3)中性脂肪(TG)値:150mg/dL以上(空腹時)
4)空腹時血糖値:110 mg/dL以上
5)HDLコレステロール値:40 mg/dL未満

 その他、現在各国でそれぞれの診断基準が作成されているが、各国によりそれぞれの基準値に若干のバラツキが見られる。

 日本人に見合った診断基準についても、現在再検討が行われており、特に、腹囲と血糖値について見直しが見込まれる。腹囲の基準は、CT検査にて100平方センチメートル以上に相応するが、腹囲基準値において男性が女性より小さいのは、わが国だけである。欧州の診断基準では、男性94cm以上、女性80cm以上としている。これについては、日本人女性の体格的特徴であるとされているが、異論が多くみられるところである。血糖値については、国際糖尿病連合(IDF)などから、100mg/dlを勧奨している。福岡県久山町の健診結果から空腹時血糖110mg/dl以上を採用すると、本症候群の出現頻度は男性で21.1% 女性8.2%であるのに対し、IDF勧奨基準を採用すればそれぞれ30.4%,14.7%であった。このように、基準値により出現の頻度はかなり変化する。診断の根幹となる各基準値の推移については、特に注意を払うべきであろう。